状況が変わりローンを毎月支払うのが苦しい、残債は残っているが早く家を売却したいといった時に行えるのが任意売却です。
任意売却はデメリットもあり、あまり勧めたくない方法ではありますが売却の方法として最適な選択になることがあるのも確かです。
任意売却を行う際はその流れを理解し、より自分に条件の良いように売却できるようにしましょう。
手順と合わせてメリットや専門業者の選び方などを解説します。
1. 任意売却の流れを知る
任意売却は一般的な家の売却とは手順が異なります。
確認が必要なところや気をつけたい部分などが異なりますので、流れを把握しときましょう。
流れを把握することで不安を解消できたり、スムーズに任意売却を行うことができます。
1.1 任意売却専門業者へ相談する
任意売却をより良い条件で行うには、債権者との交渉が必要です。
任意売却が必要な状況に追い込まれてしまった場合は、債権者よりも先に任意売却業者に相談しましょう。
この時、普通の不動産会社よりも任意売却専門業者を選ぶことをおすすめします。
なぜなら、任意売却専門業者は任意売却に対する知見が広く経験も豊富なため、交渉を有利にスムーズに進めてもらうことができるからです。
相談を行う際には物件の情報や滞納状況など全てを包み隠さず話しましょう。
業者に現在の状況をしっかりと把握してもらうことが、迅速な任意売却の対応へとつながっていきます。
物件の種別や所在地、借入先の金融機関名、現在のローン残高、滞納状況、現在の生活状況など、業者が状況を適正に判断できるよう事細かに情報を伝えてください。
また、債権者が銀行のほかに、消費者金融など複数ある場合にも任意売却は可能です。
この場合、すべての債権者に任意売却の許可を得なければなりません。
そして、売却金額は任意売却専門業者がそれぞれの借入金額を参考にしながら配分し、債権者ごとに交渉を行います。
なお、この債権者は家を担保に借り入れを行ったときの債権者であり、家を担保にせずに借り入れをしている借金の債権者には当てはまりません。
この家を担保にしていない借金の借り入れをしている債権者に対しては、任意売却の許可を得る必要もありませんし、売却で得た金額で支払いをする必要もありません。
任意売却業者はどうやって選ぶと良い?
任意売却を成功させるためには業者選びも非常に重要となります。
任せる業者によって任意売却で得られる利益は大きく変わってきます。
任意売却業者を装った詐欺も横行しているので、選択を間違えないように業者選びのポイントを事前に把握しておきましょう。
任意売却実績を確認する
任意売却を行う際は、債務処理などを行う必要もあり通常の売却業務よりも専門的な知識や複雑な処理を伴うことになります。
必ず任意売却の実績を確認して、経験やノウハウなどがある専門業者かどうかを確認しましょう。
弁護士との連携の有無
任意売却を行うためには法律の知識も必要となるため弁護士や司法書士の協力なしには売却を成功せることはできません。
そのため、弁護士や司法書士と契約を結んでいたり、社内に常駐しているところを選ぶと良いです。
「なんでもできる」という業者は危険
相談を行う段階で「なんでもできます」と言われると一見心強いように思えます。
しかし、任意売却は債権者との調整や合意も必要となるため、必ずしも業者の思い通りに処理を進めることができるとは限りません。
甘い言葉を並べるだけでなく、任意売却に伴うリスクやできないことは明確にするなどマイナス要素も包み隠さず話してくれる任意売却専門業者の方が信頼がおけるでしょう。
上記のポイントを踏まえた上で、信頼できる任意売却専門業者を見つけましょう。
任意売却専門業者を見比べるためにも1社への相談で即決するのではなく、複数の会社と連絡を取ることをお勧めします。
また、融資を受けている金融機関から任意売却専門業社が紹介されることもありますが、金融機関に有利な条件で交渉が進められていく可能性が高いため、債権者とは関わりのない業者を選択することも重要です。
少しでも自分に有利な条件で任意売却を進めるためや、債権者に紹介された業者にしないためにも、自分で先に任意売却業者を決めておきましょう。
1.2 物件査定とスケジュールの打ち合わせ
相談内容を基に任意売却専門業者によって物件の調査と査定が行われます。
一般的に査定価格は近隣物件の相場額と同額程度 になることが多くなっています。
相場より査定額が安すぎると損をすることになりますし、高すぎると買い手がつきにくく売却までに期間を要することになるので注意が必要です。
査定額の算出だけでなく売却方法や売却スケジュールも任意売却専門業者に提案してもらえるため、提案内容を基に今後の予定を立てていきます。
1.3 専任媒介契約の締結する
物件の売却を任意売却専門業者に依頼する場合は媒介契約を締結する必要があります。
媒介契約は「専属専任媒介契約」「専任媒介契約」「一般媒介契約」の3種類の方法がありますが、任意売却を行う際は専任媒介契約 での契約締結を行うことになります。
契約を締結すると業者が債権者に対して任意売却への同意を得るために、販売価格や販売期間、諸費用の負担等の条件交渉を行います。
専任媒介契約とは何か、他の2種類の媒介契約との違いは何かと疑問に思った方は、ぜひ、以下の資料をご覧ください。
不動産会社に不動産の仲介を依頼する際は、不動産会社と媒介契約を結びます。 媒介契約には専属専任媒介契約と専任媒介契約、一般媒介契約があり、どの媒介契約を結ぶかは不動産の売主と不動産会社との話し合いで決まります。 どの媒介契約を結[…]
1.4 販売を開始し購入者を決定する
債権者からの合意を得ることができれば、いよいよ販売開始となります。
住宅情報サイトや新聞チラシなどに物件情報が掲載され、販売活動が進められていきます。
購入希望者が現れれば、購入意思を示す買付証明書 を作成してもらい債権者へ提出します。
債権者から承諾を得られれば、売買の手続きが進められていきます。
買受人と売買契約締結し、引き渡しの日程を相談して決めていきましょう。
1.5 債権者の同意を得る
債権者から同意を得る際は、先ほど紹介した買付証明書に加えて配分表の提出 も必要となります。
配分表とは不動産の売却価格から各債権者の残高、仲介手数料、抵当権抹消登記費用などを差し引いて売却金額をどのように配分するのかを明示した大切な書類となります。
債権者と交渉し任意売却に伴う引越し代金を負担してもらえる場合は配分表に諸費用として記載することができます。
引越し費用の負担については債権者との交渉によって決められるものであり任意売却専門業者の独断で決めることができません。
「引越し代金無料」などとうたい文句をつけている業者もありますが、交渉力に優れていなければ「引越し代金無料」を実現することは難しいということは覚えておきましょう。
1.6 不動産引渡しおよび代金決済
売買契約が完了してから1ヶ月〜1ヶ月半後 を目処に代金決済が行われます。
同時に残代金の受領、債務の返済、抵当権の抹消、不動産の引渡し、諸費用の支払いなども行われます。
2. 任意売却のメリット
任意売却のメリットはローンが完済できない不動産を売却できるという点だけではありません。
そのほかのメリットも紹介します。
任意売却をするべきかどうか、判断をする材料にしてください。
2.1 市場相場に近い価格で売却できる
任意売却は通常の不動産売却と同様の方法で売却が進められていきます。
良い条件で売却を行えるように、チラシやネットなどで広く情報を流し時間をかけて購入者を選定することができるので市場価格に近い価格 で売却することができます。
2.2 周囲に事情を知られずに売却できる
任意売却は一般の不動産売却と同様に売却が行われるため、ローンを滞納しているという事実が周囲に知られることはありません。
競売になった場合は新聞や業界紙インターネットなどで物件情報や住所が公表されてしまうため、隣近所の人にローンを滞納し競売にかけられたという事実が知られてしまうことになります。
競売になってしまっても債権者の合意を得ることができれば任意売却に切り替えることが可能です。
ただし、競売の入札が開始されてしまうと合意を得ることが難しくなってしまうため、任意売却を行いたい際は早めの手続きが必要となります。
2.3 家に住み続けることも可能性もある
任意売却を行う際は、リースバック という方法をとれば賃料を支払って家に住み続けることが可能です。
リースバックとは賃貸借契約付き売却のことで、不動産を売却した上で新たに買主と賃貸契約を結び賃料を支払うことで売却した家に居住できるという仕組みのことを指します。
買主側は入居者を探す手間がなく、売主はそのまま生活を続けることができます。
さらに、買主が同意をすれば、数年後に再売買契約を結び家を買い戻すことも可能となっています。
2.4 残債は分割で返済できる
任意売却を行い債務が残ってしまった場合でも一括返済を行う必要はなく分割でローン返済ができます。
返済額は収入や生活状況を考慮した上で債権者と協議を行い決定することが可能で、一般的に月々5,000円~30,000円を返済することが多くなっています。
連帯保証人に請求が行くケースもある
残債が少ない場合は債務者が分割で返済できるケースが多くなっていますが、多額の残債がある場合は債務者に支払い能力がないと判断され、連帯保証人に請求が行われる可能性があります。
連帯保証人は債務者の次に支払い義務があるため、請求を免れることは難しく保証人に多大な迷惑がかかる恐れがあるということはしっかりと覚えておきましょう。
連帯保証人が不動産を所有しており、ローンを完済し金融機関の担保となっていない場合は、連帯保証人の不動産が競売にかけられる可能性が高くなっています。
つまり、親が保証人である場合、親自身が自分の家のローンを完済しているときには、親の家も支払いのために競売にかけられてしまう可能性があるのです。
また、連帯保証人の保証人はいないため、残債を支払うことができない場合は連帯保証人が自己破産を行うことになってしまいます。
最悪の場合は任意整理も
返済がどうしても厳しいという場合は任意整理を行えば将来利息や遅延損害金の免除、毎月の返済額の減免を受けることも可能です。
ただし、債務者も連帯保証人もブラックリストに任意整理や自己破産を行ったことが記録されてしまうため、今後融資を受けることやクレジットカードを発行することが難しくなってしまいます。
保証人に迷惑をかけたくない場合は任意売却業社への相談が必須
残債が少ない場合は自分で返済を行なうことができますが、請求先は任意売却を行う段階で決定されるため事前に任意売却業社に対して自分で債務を支払う意思を明示しておくことが大切です。
売主の意思を汲んだ条件を認めてもらえるように、任意売却業社が債権者と交渉を行っていきます。
意思の明示を忘れると、たとえ残債が少ない場合でも連帯保証人に請求がいく可能性がありますので注意が必要です。
2.5 引越し費用を融通してもらえる
任意売却を行うと家を立退く必要があるため引越しが必要となりますが、引越し費用を最大30万円まで融資してもらうことが可能です。
この引越し費用には、敷金、礼金、仲介手数料なども含むことができます。
ただし、融資を受けられるのは債権者から合意を得られた場合のみです。
経験豊富で腕のある任意売却業者に依頼を行わなければ費用の融資は難しくなります。
3. 任意売却の必要要件ついて
任意売却は簡単に行えるわけではなく、以下の要件を満たしていることが必須となります。
- 債権者の合意を得ている
- 税の滞納等で物件が差し押さえられていない
- 売却活動時間が十分に確保されている
- 市場価値のある物件である
- 共有者の同意が得られている
- 連帯保証人の同意が得られている
- 一定額以上の管理費・修繕積立金の滞納がない
特に債権者からの合意を得ることは容易ではなく、債権者が納得できない価格では売却を行うことができません。
債権額とかけ離れた価格では売却を却下されることもあるので気をつけましょう。
4. 任意売却ができる時期や期間について
また、無期限で行えるものではなく期限も決められているため、しっかりと期間内に任意売却を完了できるように計画を立てる必要があります。
4.1 リスケジュールしても滞納してしまう場合
ローンを支払うのが苦しくなっても滞納前の時期に任意売却を行うことはできません。
ローン返済が厳しい場合はまずはリスケジュールを行い、毎月の返済額を減額し返済期間を伸ばす措置が取られます。
リスケジュールはメリットが大きく、毎月の返済額が減ることで一時的にお金の余裕も生まれますし、団体信用生命保険も利用できます。
また、ブラックリストには載らないため、金融機関などを利用する際に困ることもありません。
リスケジュール期間に経済状況を改善することができれば、再び本来の金額で返済を行っていくことになります。
リスケジュールを行っても返済が厳しく滞納してしまう場合は、任意売却の相談を行なってください。
4.2 競売の開札期日の前日まで
一般的に競売の開札期日の前日までなら任意売却を行うことが可能です。
ただし、債権者によっては競売の手続きが始まった時点で任意売却を認めないこともあるため、万が一の場合に備えて手続きは早めに行いましょう。
任意売却による引渡しを行うためには、少なくとも1ヶ月以上の交渉時間を有することになりますので時間に余裕を持っての行動が重要です。
4.3 任意売却の期限は金融機関による
任意売却には期限が設けられており、期限を過ぎても買い手が見つからない場合は競売にかけられるケースもあります。
金融機関によって期限は異なりますが、一般的には3ヶ月~6ヶ月とされることが多くなっています。
期限内に売却を成立させるために、売り出し価格は非常に重要になってくるため相場額に沿った適正な価格での売り出しを行えるようしっかりと交渉を行いましょう。
5. 任意売却をするときの注意点
対応が遅れると、適正な価格での売り出しができず損を被るなど様々な悪影響をもたらしてしまいます。
5.1 できるだけ早く任意売却専門業者に相談する
先ほども紹介したように決められた期限内に手続きを行わなければ、任意売却を実行することはできません。
そのため、手遅れになる前にできるだけ早く任意売却専門業者に相談 する必要があります。
また、売却期間が迫っていると早期に成約させて仲介手数料を得るために通常の値段よりも安い価格を提示されることもあります。
より高い価格で売却するためにも、任意売却が必要な場合は早めに相談を行なってください。
5.2 任意売却できない場合は競売にかけられる
任意売却期間内に買い手が現れない場合は競売にかけられるケースが多くなっています。
また、競売にかけられても買い手が見つからないと、さらに値段が下げられて再度競売にかけられることになります。
販売期間が伸びれば伸びるほど販売条件が悪化していくため、期間内に売買できるように信頼できる任意売却専門業者に依頼を行い適正な価格で売却を行いましょう。
5.3 ブラックリストに載る可能性がある
住宅ローンを3ヶ月以上滞納した場合はブラックリストに載る可能性があります。
つまり、任意売却に至るほど長期間ローンを延滞していると言うことは、ブラックリストに載る恐れが高いと言うことです。
ブラックリストの情報は信用情報機関に登録されてしまうので、5~7年程度はローンやカードの審査が通らないと考えておいてください。
6. 任意売却に必要な書類
数が非常に多く短時間で全てを揃えることはできませんので、時間に余裕を持って用意を行いましょう。
- 登記識別情報「登記済権利証」のコピー
- 身分証明書のコピー
- 物件購入時における、不動産売買契約書および重要事項説明書
- 建築確認申請書写し、間取図、購入時のパンフレット
- 固定資産評価証明書
- 固定資産税納付書のコピー
- マンションの場合は、管理規約書、管理費と修繕積立金の明細、管理会社
- 物件の写真
- 住宅ローン借入時の債権者との金銭消費貸借契約書、保証委託契約書
- 競売開始決定通知書、督促状等
- 印鑑証明書
7. 任意売却を成功させるためにはできるだけ早く相談する
任意売却の流れを見れば、一般売却より手間や時間がかかることが分かります。
任意売却をする際は、良い条件で売却を行えるように債権者との交渉時間などが長く取れるようにしましょう。
交渉を上手く進めるためには任意売却専門業者と密に相談しておくことも重要です。
住宅ローン返済が難しくなったら、なるべく早めに相談をしましょう。
任意売却をする前に、住宅ローンのある家を売却するための方法は以下でも考察しています。
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