富山市のコンパクトシティが土地価格に与えた影響

日本の人口は、平成60年(2048年)に1億人を割ると推計されており、国策としてコンパクトシティが推進されていく流れです。
コンパクトシティは、居住地域の誘導によって様々なメリットを生み出します。

重要なのは、コンパクトシティの目的よりも、その手段である居住地域の誘導でしょう。
人の動きは不動産価格に直結しますから、居住地域にある不動産と、居住地域から外れる不動産では、資産価値が変わってくる可能性もあるのです。

そこで、コンパクトシティの先駆けとなった富山県富山市を例に、居住を推進されている地域の土地価格を調べてみました。
あくまでも一例にしか過ぎませんが、不動産活用の判断材料になるかもしれません。

コンパクトシティのおさらい

念のため、コンパクトシティを簡単におさらいしておきます。
コンパクトシティとは、施設やインフラと人口を集約化することで、都市機能の維持、行政の効率化と財政改善、環境保全とエネルギー消費の低減などを目指すものです。

人が多いほど増える商業施設は、人口減少と共に撤退していきます。
医療・介護サービスも人口が少ないと十分に提供されず、現在でも過疎地の施設不足・医師不足は深刻な課題です。

また、同じ人口では居住地域が広いほど、行政サービスが非効率になります。
住民が一定区域に固まって居住していても、バラバラに分散して居住していても、行政サービスは等しく提供しなくてはならないからです。

このように、都市機能は人口密度と連動しており、人口減少が避けられないなら、都市機能を維持するために人口を集約しようとするのが、コンパクトシティの基本概念です。
居住を推進する地域を設け、人口移動を誘導することで住みよい街を目指します。

コンパクトシティの詳細は、こちらの記事をご覧ください。

コンパクトシティとは?成功・失敗の事例とメリットデメリット
ドーナツ化現象や空き家問題を背景に注目されるコンパクトシティ。人口減少時代はこれまでに有効な例がなく、試行錯誤の取り組みです。青森市や富山市の事例とともに、そのメリットとデメリットを見てみましょう。

富山市のコンパクトシティ

富山市のコンパクトシティでは、北陸新幹線の停車駅で、富山市の中心部でもある富山駅周辺を都心地区と定め、都心地区から放射状に広がる主要な交通網沿線を、居住推進地区として補助事業の対象にしています。

主要な交通網沿線がすべて補助事業の対象ではなく、鉄軌道(鉄道やライトレール)の駅から半径500m、もしくはおおむね1日60本の運行頻度があるバス停から半径300mの範囲です(片道で朝夕が1時間3本~4本、他の時間は1時間2本程度の運行で該当)。

富山市の公共交通沿線居住推進補助対象地区

住民がどこに住もうとそれは自由なのですが、居住推進地区には住宅の取得に補助金が出るので、インセンティブによって人口移動をうながす施策です。
実際のところ、転出超過が続いていた公共交通沿線居住推進地区は、平成24年で僅かな転入超過に転じ、平成26年・27年は大きく転入超過となりました。

では、居住推進地区の居住人口が増えたことで、地価はどうなっているのでしょうか?

富山市全体の地価動向と調査結果

富山県の資料によると、富山県全体の地価公示価格は下落が続いているところ、ここ数年の富山市は上昇を続けており、住宅地よりも商業地の上昇が顕著です。

H26 H27 H28 H29
住宅地 ▲0.3% 0.2% 0.3% 0.1%
商業地 ▲0.6% 0.6% 0.7% 0.4%
富山市全体 ▲0.4% 0.3% 0.4% 0.2%

※富山市全体には工業地を含む

商業地の地価上昇は富山市中心部で大きく、商業地に引っ張られる形で、中心部やその周辺にある住宅地も大きな地価上昇が見られました。
それでも、全体の上昇率は小さいので、中心部から離れた地域は下落が予想できます。

また、商業地よりも住宅地の動向を知りたい土地所有者が多いでしょう。
中心部から離れた地域を含め、住宅地の地価動向を局所的に調査してみました。

調査対象とした沿線ならびに地点

今回の調査対象としたのは、県道44号富山高岡線の周辺にある標準地(地価公示地点)と基準値(地価調査地点)の合計12地点、すべて住宅地域です。
県道44号は、富山市と高岡市を繋ぐ重要な道路で、旧国道8号でもあります。

ただし、県道44号沿線のすべてが居住推進地区ではありません。
調査では、県道44号から比較的近い地点を選びましたが、必ずしも県道44号沿線ではなく、比較のため居住推進地区から外れた地点も含めています。

居住推進地区との関係については、それぞれ内側・境界付近・外側で示しました。
No.1~No.4が居住推進地区の内側、No.5~No8が居住推進地区の境界付近、No.9~No.12が居住推進地区の外側です。

No. 住所概要 位置 土地の利用状況
1 五福字堤外 内側 一般住宅の中にアパート等が見られる住宅地域
2 芝園町 内側 一般住宅が建ち並ぶ利便性の良い既成住宅地域
3 神通町 内側 中小規模住宅の中に駐車場等が見られる住宅地域
4 五艘字深田 内側 一般住宅、アパート等が混在する住宅地域
5 五福字青山 境界付近 一般住宅の中にアパートが混在する住宅地域
6 呉羽町字藤木 境界付近 一般住宅のほか学校等も見られる住宅地域
7 呉羽町字狢谷 境界付近 中規模一般住宅が建ち並ぶ住宅地域
8 ひよどり南台 境界付近 中規模一般住宅の中に空地等が見られる住宅地域
9 住吉 外側 一般住宅と農家住宅等が混在する郊外の住宅地域
10 呉羽町字三舛苅 外側 中規模一般住宅等が建ち並ぶ既成住宅地域
11 北代字大畑 外側 中規模一般住宅の中に畑地等も見られる住宅地域
12 願海寺字土福 外側 郊外の一般住宅が建ち並ぶ区画整然とした住宅地域
居住推進地区内外の調査地点

これらの調査地点において、富山市がコンパクトシティに舵を切り始めた平成18年から、最新データの平成28年まで、地価公示価格・地価調査価格の動向と、居住推進地区との関係を検証します。

調査結果

平成18年から平成28年までの地価(地価公示価格・地価調査価格)を、2年刻みで示したのが以下の表です(単位:円/㎡)。

No. H18 H20 H22 H24 H26 H28 H28/H18
1 63,800 60,900 56,000 53,000 53,000 53,000 83.1%
2 78,000 76,200 74,500 76,000 78,300 85,000 109.0%
3 76,300 73,300 71,500 73,000 76,100 81,900 107.3%
4 51,000 48,200 43,800 41,000 40,200 39,800 78.0%
5 53,800 52,300 49,400 47,000 46,100 46,100 85.7%
6 37,500 36,000 31,500 30,000 29,000 28,000 74.7%
7 57,500 55,000 49,300 45,700 44,300 43,000 74.8%
8 55,000 53,500 51,700 51,700 51,700 51,700 94.0%
9 23,000 21,000 17,600 16,600 15,900 15,500 67.4%
10 44,600 42,300 37,800 34,400 32,800 32,800 73.5%
11 38,000 36,300 31,800 29,400 28,800 28,800 75.8%
12 31,000 29,000 26,000 24,500 23,800 23,600 76.1%

右端は平成18年に対する平成28年の地価、つまり、平成18年を100%とした場合における平成28年の地価割合です。
100%を超えていれば地価上昇、100%を割っていれば地価下落を意味します。

調査結果の考察と不動産活用の可能性

調査前から予想できたことですが、居住推進地区の内側は商業施設が多く、主要な交通網が整備されて利便性も高いため、そもそもの地価が高くなっています。
反対に、居住推進地区の外側は地価が低く、境界付近は中間的な地価です。

全体的に地価は下落している中、当初より地価の高いNo.2とNo.3が上昇しています。
この2地点は、富山市を南北に流れる神通川の東側で、富山市中心部に隣接した非常に利便性の高い地域です。

前述のとおり、富山市全体の商業地は中心部で大きく地価上昇していますから、中心部に隣接したNo.2とNo.3の地価が上昇したのは、商業地の上昇が影響しています。

居住推進地区と地価の関係

居住推進地区の内側、境界付近、外側のそれぞれ4地点を平均してみましょう(内=内側、境=境界付近、外=外側、単位:円/㎡)。

H18 H20 H22 H24 H26 H28 H28/H18
67,275 64,650 61,450 60,750 61,900 64,925 96.5%
50,950 49,200 45,475 43,600 42,775 42,200 82.8%
34,150 32,150 28,300 26,225 25,325 25,175 73.7%

注目すべきは地価の下落率で、居住推進地区から離れるほど大きく下がっています。
視覚的にするため、折れ線グラフで表示してみました。

コンパクトシティ内外の地価推移

グラフからわかるのは、平成24年から居住推進地区の内側で回復に向かっているだけではなく、境界付近と外側も下げ幅が小さくなっていることです。
そして、平成24年は居住推進地区が転入超過に転じた年であることも見逃せません。

もう一度、全12地点を確認してみると、地価が上昇したNo.2とNo.3以外でも、平成24年からは現状維持に近く、転入してもインセンティブのない居住推進地区の外側ですら、地価が下げ止まっているのは注目に値するでしょう。

もっとも、居住推進地区の外側として採用した4地点は、極端に居住推進地区から離れておらず、利便性が著しく悪い地域までが同様の傾向とは限りません。

居住推進地区の内側は活用の可能性大

富山市の場合、コンパクトシティ構想を打ち出してから、居住推進地区の全体が転入超過に転じるまで、6年もかかっています。
居住推進地区に入っている土地は、いずれ地価が回復することも十分に考えられます。

したがって、今は地価が下がっていても、居住推進地区の不動産を手放すのは早計です。
自治体の施策次第ですが、転入超過になって人口が増え始める前から、需要は少しずつ高くなるはずなので、今から活用を考えておきましょう。

また、居住推進地区への人口移動が進むと、特に需要が大きくなるのは集合住宅です。
基本的には公共交通の利用となりますが、すぐに脱自動車の生活は難しく、自家用車の駐車場、場合によってはトランクルームの需要も増えると予想されます。

居住推進地区の外側でも諦める必要はない

コンパクトシティは、自動車が中心の生活を公共交通が中心の生活へシフトし、交通弱者となった高齢者を救う施策ですが、だからといって、全世代が一気に居住推進地区へ流れるかというと決してそんなことはありません。

なぜなら、自動車で郊外の大型商業施設へ向かい、買い物をして直接家に持ち帰る生活の方が、少しの荷物しか運べず、家から歩く公共交通よりも便利だからです。
自動車を運転できる現役世代に、郊外志向が強いのは今後も続くでしょう。

郊外で求められるのは、戸建て住宅による快適な住環境です。
居住推進地区の外側は、資産価値が下がりやすいとはいえ、地価の高い居住推進地区で戸建て住宅は難しいので、その周辺にも需要は残ります。

現に、調査結果では居住推進地区の外側で地価の下げ止まりが見られました。
居住推進地区に人が集まると、その外側にも活用のチャンスは広がりますが、資産価値の下落を考えるとその判断は分かれるのかもしれません。

なお、勘違いしやすいですが、コンパクトシティは特定区域への居住を誘導する施策であっても、区域外での居住を制限するものではなく、居住推進地区の外側だからといって、住宅の需要がなくなるという考え方は誤りです。

まとめ

コンパクトシティには、少子高齢化時代の打開策としての必要性以外にも、地価を上昇させて固定資産税を増やし、疲弊した地方自治体の財政を安定させる目的があります。
ということは、やはりコンパクトシティの成功で全体の地価は上がるはずです。

ただし、その地価上昇は、都市機能と居住地域の集約による結果ですから、既に利便性が良く地価の高い地域が、より高くなることによる全体の押し上げです。
地価の下がっている住宅地まで、地価を上げていく施策ではありません。

今回の調査では、居住推進地区から離れるほど地価の下落が大きい結果となりました。
居住推進地区から外れても当面の需要は失われませんが、活用している間に資産価値が下落しやすいのは否めず、手放して居住推進地区の資産へ転換しておくのも一考です。

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