農地を貸す7つの事例と収入、相続前に貸すメリットデメリット

農地

国土面積が小さい日本は、諸外国と比べて食料自給率が低く、歴史的に農業や農地は独自の法律によって規制・保護されてきました。
しかし、1950年代は約半分を占めていた農林漁業の就労者は、2000年に入ると約5%まで落ち込み 、農業においても深刻な労働力不足が続いています。

田舎においては傾向が顕著で、農業の担い手不足は慢性化とも言える状況です。
一部若年層に農業への回帰が見られるものの、農業全体での状況は変わらず、より効率の良い農地の利用を目指して政策は常に動いています。

その一方で、農家しか取得できないはずの農地は、農家から相続されることで、農家以外の所有が相次ぎ、遊休農地や耕作放棄地の増加も問題になり始めています。
それらの点在で農地の集積化(まとめること)が進まず、農地が非効率に利用されているからです。

農地は耕作に使用する前提の土地であり、たとえ農家以外が相続しても、勝手に処分することが許されていません。
農地は農家が耕作のために利用するという原則は、現在でも崩されていないのです。

そこで、農家以外の農地所有者や、これから農地を相続させる側としては、農地特有の規制や活用方法に関連する制度を知っておく必要があるでしょう。
農地を農地のままで考えた場合、自分で使わなければ売るか貸すしかなく、ここで取り上げるのは「貸す」についてです。

農地を農家以外が相続すると…

農地は農家でなければ取得できず、第三者同士の取引は農地法で規制されています。
具体的には、管轄する農業委員会(行政)の許可がなければ取引できません。

しかしながら、農家以外が許可なしに農地を取得できるのが相続です。
本来ならば農家しか所有が許されない農地でも、農家以外への相続も規制してしまうと、相続権の侵害になってしまうからです。

したがって、相続での農地取得に制限はないのですが、農業委員会への届出制度が平成21年12月15日から始まりました。
この届け出は怠ると10万円以下の過料に処せられるため、忘れずに行う必要があります。

相続による農地取得の届出

相続による取得から10ヶ月以内に、地元の農業委員会へ届け出るかんたんな手続きです。

【届出に必要なもの】

  • 農地法第3条の3第1項の規定による届出書(役所の様式)
  • 農地取得者の印鑑(届出書を自署なら不要)
  • 相続を確認できる書類

相続を確認できる書類とは、相続登記された登記簿謄本(登記事項全部証明書)や、亡くなった人の戸籍謄本(または除籍謄本)と農地を取得した人の戸籍謄本などが考えられます。
相続の事実を確認するだけなので提出の必要はなく、写し(コピー)でも大丈夫です。

また、届出書には、農業委員会による斡旋を希望するかどうかの記入欄があります。
活用方法が決まっていない農地なら、積極的に斡旋を受けて活用するべきです。

相続した農地の活用と転用制度

耕作以外の利用が許されない農地は、農家以外が相続したとしても用途は変わらず、相続人が耕作できなければ、事実上土地を使えないのと同じです。
しかし、相続した農地の所有者に耕作を強いることはできず、農地以外の用途に使うための転用制度が設けられています。

転用とは、農地を名目上で農地以外の土地に変えることで、転用も農業委員会の許可が必要です(市街化区域は届出でも転用可能です)。
転用が許可されれば農地ではなくなり、所有者が自由に利用や処分できるようになります。

そこで、農家以外が農地を相続した場合は、転用を考える人が多いのですが、転用はできる農地とできない農地があるので必ず確認しましょう。
地元の農業委員会に、自分の農地が転用対象になるか問い合わせるのが確実です。

転用できるかどうかの分類は、こちらで解説しています。

遊休農地を活用する3つの方法と転用許可の基準
農地の活用は「転用」ができるかどうかが分かれ目で、できなければ農地以外の用途では利用できません。まずは転用できるかどうかの基準と、できる・できないそれぞれの活用パターンを紹介します。

転用できない農地の場合、これから相続があるなら相続人は土地の活用に困ります。
相続人が農家以外なら、農地の活用は相続前に考えなくてはなりません。

農地を貸す場合の事例

転用できる農地なら、転用の許可さえあれば自由に貸すことができます。
この場合、借主がどのように使用したとしても、貸主は地代を受け取るだけです。

活用事例 備考
個人向け住宅・賃貸住宅 移住者や転勤者などが対象
高齢者向け住宅 医療・介護事業者、不動産会社などが対象
事業用 店舗、事務所、工場など道路事情も影響
太陽光発電 日照を確保できることが条件
駐車場 ある程度人口密度が高い地域
資材置き場 法人や一時的な公共工事が対象

方法1:個人向け住宅用地として貸す

移住者が自ら住宅を建てる、または転勤者が賃貸するための住宅を建てる事業者に、住宅用地として貸し出します。
田舎で大規模な集合住宅は考えにくく、それほど大きな土地を必要としません。

農地が大きすぎる場合には、分筆して貸す選択もあるのが住宅用地です。
もちろん、借主の意向がありますし、他の用途で貸す可能性を考えると、先に分筆するのではなく、分筆希望がある借主に応じるくらいでしょう。

住宅用地では、土地だけあってもダメで、宅地として電気・ガス・上下水道の引き込みが容易でなくては好まれません。
そのため、これらの引き込みが容易な、公道に接する農地が対象です。

方法2:高齢者向け住宅用地として貸す

高齢者向け住宅とは、賃貸住宅に医療や介護サービスを付加した、いわゆる老人ホームとは異なり、健常な高齢者も対象にする住宅です。
静かな環境で老後を過ごしたいニーズから、田舎でも成り立つ事業です。

規模が大きいだけに、個人の参入はあまりなく、医療・介護事業者の他にも、不動産会社が間に入って転貸する事業形態も行われています。
広い敷地が必要になり、交通の便はあまり問われないですが、住宅用地なので、個人向け住宅と同じようにライフラインも必須で、道路に接していることも条件です。

方法3:事業用地として貸す

店舗、事務所、工場など考えられますが、いずれの場合でも事業用地のほとんどは交通量が見込める沿道が条件なので、貸し出せる農地は限られています。
農地では地盤に不安を残し整地が必要になるとしても、整地費用は借主が立て替えて地代から控除していくので、貸主に直接の負担はありません。

ただし、事業用地の場合には、借主の業績が悪化すると撤退してしまうリスクがあって、ロードサイドの代表格であるコンビニでは、特に撤退も早く予測は困難です。
その一方で成功すれば、長期安定収入が得られ契約終了後は更地で返されます。

方法4:太陽光発電用として貸す

太陽光発電で最も重要視されるのは日照の良さで、日照がない農地は考えられないことから、農地は太陽光発電用として最適であることは疑いようがありません。
日照が安定すれば発電が安定し、地代収入も安定するため手堅い貸し出し方法です。

ただし、相続を考えた場合は、太陽光発電事業が10年間を初期投資の回収期間とする都合上、長期間の賃貸借契約に拘束されるデメリットがあります。

もっとも、このデメリットは建物を建てる借主に貸す場合も同じです。

方法5:駐車場用地として貸す

ある程度人口があり、利便性が高い農地なら駐車場用地の需要も考えられます。
駐車場の良い点は、投資コストが小さいことにあり、極端な例では地面にロープを張って区画にするだけで成り立つからです。

多少の整地を必要としますが、その費用も建物を建てる場合より安価で、何より立地をクリアできるかどうかがポイントです。
大きな収益を得られる方法ではないとはいえ、短期的な賃貸借契約にするなど自由度が高く、相続までの一時的な貸し出しとしては優れています。

方法6:資材置き場として貸す

運搬車両が出入りする関係で、資材置き場は道路に接していることが条件です。
また、近隣に資材を置きたい会社がないと、当然に需要がありません。

その代わり、一時的な需要として、付近の工事で発生する資材や機械、車両等の置き場として需要が発生することもあります。
ただし、農地を転用するための手続きに時間がかかる点がネックとなって、事前に話を持ちかけられないと難しい面を持っています。

方法7:農地として貸す

農地として貸す場合でも農業委員会の許可が必要で、かんたんに貸せないのが農地です。
しかし、選択肢は限られますが許可を必要とせずに貸す方法もあります。

  • 農家に耕作用として貸す(許可が必要)
  • 市町村の農用地利用集積計画を利用して貸す(許可は不要)
  • 農地集積バンクを利用して貸す(許可は不要)
  • 市民農園として貸す(許可は不要)

農家に貸す方法は許可を必要とするものの、使いたい農家がいれば確実です。
許可は農業委員会に申請、賃貸借契約または使用貸借契約は直接農家と結びます。

農用地利用集積計画を利用する方法は、市町村が借りたい農家とのマッチングをしてくれますが、すべての農地を対象としておらず確実ではありません。

農地集積バンクを利用する方法は、都道府県の第3セクターが借り受け、農地を借りたい人に転貸する形で、農業振興地域の農地に限られます。

農地バンクとは?利用のメリットデメリットと問題点について
アベノミクス政策の1つ、農地集積バンク(農地中間管理機構)について書きました。農地所有者の目線で見るメリットデメリットと、そこから見えてくる今後の課題とは?

最後の市民農園は、農地を貸す方法、農業体験をさせる方法、それら2つに付帯施設を伴う方法があり、以下の記事で詳しく解説しています。

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いずれの方法でも、必要な手続きや各制度の詳細は市町村へ問い合わせてみましょう。
農地を借りてくれる人がいなければ実現しないので、必ず貸せるとは限りませんが、自分で貸す相手を見つけられないときに有効です。

転用できる農地を貸す場合の注意点

農地転用の制度は、農地の所有者が自ら使う場合でも借主が使う場合でも、その使用目的を達成する見込みがあることを条件としています。
そのため、単純に農地から農地以外の土地へ転用する申請は受け付けられません。

つまり、転用申請のためには、農地の状態で借主と交渉するということです。
具体的に話がまとまってから、転用許可を前提とした賃貸借契約を結びます。

なお、農地を転用しても、すべての活用事例には適さないことには注意を要します。
特に、建物を建てる事例では、建築基準法の制限で幅4メートル以上の道路に2メートル以上接しなければならず、建物が建てられない農地も当然あります。

また、電気・ガス・上下水道のライフラインを必要とする場合、道路沿い以外の農地では兼ね備えていないことがほとんどで、工事規模から敬遠されるかもしれません。
転用できる農地は比較的市街化が進んでいる地域だと考えられますが、付近(近接道路)にライフラインが存在するか確認してみましょう。

もう1つ、農地は地盤が強固ではなく、他の用途で使うには地盤改良や盛土・造成を必要とすることで、費用が多くなりがちなのも問題とされます。

相続前に農地を貸しておくメリットとデメリット

相続人が農家以外で、遊休農地になってしまうことが確実なら、相続前に貸し出してしまうことで、この問題を回避できます。
ところが、貸し出すことにもメリットとデメリットがあり、事前の検討は大切です。

メリット

相続時に貸し出していると、相続しても権利は継承されるので、相続人への負担がなく、(無償でなければ)地代収入も得られるので、相続人としても助かるはずです。
また、農地として貸す場合は、農地が荒れるのを防ぐ他にもメリットがあります。

農地は用途が耕作に限定される性質から、固定資産税がかなり安くなっています。
しかし、固定資産税の課税は現況で決められるため、耕作放棄地(遊休農地)は固定資産税が跳ね上がってしまい、農地として貸し出せば農地での課税で済みます。

デメリット

転用の有無に関係なく、貸し出す行為が不動産としての流動性を落とします。
賃借権が発生しない市民農園を除き、貸した場合のすべてに共通するのは、借主に権利が発生して自由にできなくなる点がデメリットです。

また、転用した時点で農地ではなくなるため固定資産税が高くなり、建物が建つと固定資産税は下がりますが、その代わり契約期間が長い借地権が発生します。
逆に農地で貸す場合は、相続人が農業を行えないのでデメリットは少ない代わりに、契約関係をしっかりしておかないと、代替わりで契約トラブルが起きやすくなります 。

例えば、親の代でされた契約が、農家同士の口約束で書面が残っておらず、賃貸料も当時のタダ同然で、子の代になって借主とトラブルになるという話も聞きます。

農地を貸す場合の収入

農地を貸す場合は、転用して貸した方が、用途は豊富になって収益が上がります。
本来の地代は、その土地を利用して得られる収益から求めるのが適切ですが、実際には固定資産税の3倍から5倍程度の範囲や、周辺の地代相場も考慮されて決まります。

農地を転用して貸す場合

土地(転用後は農地ではないので)をどのように使うかで、賃料も変わっていきます。
個人住宅以外では、借主が借りた土地で得られる収益から地代を払うので、ある程度は収益に合わないと続かないからです。

ただし、転用後の農地は手を加えないと貸せない場合もあるので、借主にその費用を負担させるなら、地代を安くしなければならない点は承知しておきましょう。

農地を農地として貸す場合

土地を借りて耕作することを小作と言い、農地を農地として貸すことで、借主から小作料を得ることができます。
小作料は賃貸借契約による対価なので、当事者同士で自由に決めて構いません。

しかし、基準がないと不都合もあり、農地法で標準小作料が定められていました。
平成21年に標準小作料制度が廃止されてからは、市町村の農業委員会が、賃借料のデータを外部に提供する方法に変わっています。

全国的には、10aあたりの小作料が、田で年間12,000円程度、畑で年間6,000円程度(平成21年 )という調査もありますが、田は収穫量で、畑は作物種で当然に異なります。

実際の小作料相場は、地域の農業委員会が提供しているデータを参考にしてください。
「市町村名 農地賃借料情報 」でインターネット検索すると閲覧できるはずです。

まとめ

農地をそのまま相続させると、相続人が農家でなければ遊休農地になってしまいます。
この問題は、転用できる農地なら解決が比較的容易で、相続前に転用して貸すことで、収益物件にして相続させる方法でクリアできます。
(貸さずに転用する場合は、自分で何らかの使用目的がなくてはなりません)

農地転用は手続きも面倒ですが、相続させる側としては、次世代に懸念を残さないためにも、果たしておきたい責務です。

また、転用できない農地でも農地として貸すことができれば、同じように相続人の負担は軽減され、十分な収益は望めなくても固定資産税の増加は避けられます。
農地の貸借は行政が力を入れているので、地元の農業委員会に相談してみましょう。

以上農地を貸すことについて紹介しました。
もう1つの農地を売ることについては、こちらに詳しくまとめています。

農地の売買について。現在の価格相場と売却方法
農家の高齢化により休耕地が増えるのに対し、食料自給率を維持するため、農地の売買には許可が必要です。ここでは売買の流れと現在の価格相場についてまとめました。
農地の一括査定について
農地の一括査定について

農地は食料自給率低下を防ぐため、勝手に他の用途で使ったり、売却、貸地が許されていません。
しかし農家の子が農家であることは少なく、相続で手にした田畑を持て余してしまうケースが増え、耕作放棄地として問題となっています。

実はそんな土地も、鉄道の駅から比較的近い立地であれば、住居用に転用し、売却できる場合があります。
一括査定サービスでは、農地に対応したサイトもあるので、利用してみてはいかがでしょうか?

アグリメディア
市民農園としての活用

宅地にできない農地は活用の幅が極端に狭く、固定資産税が安いからと割り切れるならまだしも、周辺への影響もあって、管理しながら見えない出口に悩む人もいます。
また、農地として貸すにも相手が限られたり、相手が見えない不安、もしくは賃料の安さがためらう理由になることもあるでしょう。

それに対して、家庭菜園や週末農業のニーズは増えており、サポート付き、6㎡ほどの市民農園を提供する、「シェア畑」というサービスがあります。
運営するアグリメディアが農地を預かり、市民農園としての運営を一括して任せることで、一定の賃料も得られることから、農地活用の可能性を広げるものとして注目しています。

都市部を中心に対象地域を増やしているので、活用方法に困ったときは、相談してみてはいかがでしょうか。

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